偽装婚約しませんか!?
「すごい、図鑑でしか見たことがない花まである……。きっとお金に物を言わせて移植させたのね。さすが権力者はやることが違う」

 下向きに咲く桃色の花びらに触れ、独り言をつぶやく。
 本来この地域では自生していない植物を集められる資金力をうらやましく思いながら、うーむと腕を組む。
 ヴィオラの父はしがない子爵で、治める領地も特に秀でるものがない。強いて言うなら、豊かな自然だけが売りの田舎だ。先祖代々、慎ましい生活を送ってきた。
 王立学園にはさまざまな貴族の令息や令嬢が集う。裕福な貴族はどうやって富を得ているのか。どの貴族と縁を結べば、商売は発展するか。どうにか領民の生活を向上させる手がかりが得られれば、と期待を胸にヴィオラは入学した。
 勉学に励みながら、恋物語のような運命的な出会いができればもっといい。
 夢を膨らませていると、不意に廊下の向こう側から複数の話し声が聞こえてきた。

(やばっ……! 先生に見つかったら怒られちゃう)

 とっさにその場に屈み、這いつくばって植え込みの後ろに回り込む。息をひそめ、気配を極力消す。どうか何事もなく過ぎ去ってくれますように。
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