偽装婚約しませんか!?
 だが願いは虚しく、足音は中庭で止まった。しかも、あろうことか片方はヴィオラが身を隠す前のベンチに座ってしまった。

(うっそ!? どうしてよりによって、そこに座っちゃうの。他にもベンチはあるのに!)

 ぐぬぬ、と自分の不運を恨めしく思う。
 こうなったからには、彼らが立ち去るまで石像になりきるしかない。心を無にするんだ。この距離だ。一瞬でも動揺してしまえば、葉の音で気づかれてしまう。
 何があっても動かないぞと不動の構えでいると、ヴィオラがいるとは思っていない二人は会話を続ける。

「……弱ったな。セリーヌ皇女は本気だ。彼女との婚姻の申し出が正式に来れば、国王は受け入れるしかないだろう。帝国からの援助がなければ、我が国は立ちゆかない。穏便に断るためには、早急に婚約者が必要だ。しかし、セリーヌ皇女との結婚を回避したら婚約破棄してくれる令嬢なんているわけがない。完全に手詰まりだ」
「ローレンス殿下、まだ諦めてはなりません。第一皇女殿下が我が国にお越しになるまで三ヶ月の猶予がございます。なんとしてでも協力者を見つけましょう」

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