ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う
わたしはガックリと肩を落とした。
上るものも大変だったけれど、降りるのだって大変だ。
「降り、る?」
「そう。うちに帰るには下まで降りないと」
たどたどしいが、言葉は理解しているみたいね。わたしは彼の質問に頷いた。
「わかった」
彼はそう言うと、わたしを抱き上げた。
ふわりと身体が浮かぶ。
「へっ!? ちょっと!?」
「した、降りる」
「ちょっと!」
彼はずんずんと突き進み、わたしを抱き上げたまま、階段を降りた。
首から垂れ下がった鎖が階段に当たり、ガシャンガシャンと音を立てる。
最初は騒いでいたけれど、わたしは諦めて彼に身を任せることにした。
自分で降りるよりも楽だし。
楽ができるなら、したほうがいい。
なにせ、わたしは怠惰の化身だから。
彼は息も切らさず、階段を降りきった。
「あそこに馬車があるでしょ? あそこに向かって」
「わかった」
快適、快適。
人に運んでもらうのがこんなに快適だとは思わなかったわ。
彼に抱き上げられているわたしを見つけて、執事が持っていた魔石を手からボロボロと零す。
「お、お嬢様……?」
「連れて来ちゃった」
わたしは軽い口調で言った。
執事の頬がヒクリと跳ねる。
男が唸り声を上げた。わたしは慌てて、男の背を撫でる。
「はいはい。大丈夫。この人はわたしの執事。あなたに危害は加えないわ」
次第に唸り声は小さくなっていく。