ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う
「グルルルル……」
「王家もひどいことをするものね」
狼の血を強く引いたからってこの扱いは、少々常識を逸脱しているように思える。
おそろしいよりも先にかわいそうだと思った。
わたしはバッグの中からは非常食用に持ってきたビスケットを出す。
「お腹、すいてない?」
わたしは真っ直ぐ彼の口元に近づけた。
彼は唸り声を止め、ビスケットの匂いを嗅ぐ。そして、かぶりついた。
そうとうお腹が空いていたのね。
わたしはバッグに入っている非常食を、すべて男に与えた。
「ねえ、あなた。わたしと一緒に来ない? 来てくれたら、もっと美味しい物を食べさせてあげるわ」
「うー……」
探るような黄金の瞳。
イケメンかどうかはわからないけど、いい色だわ。
「わたしの言うことを聞くなら、連れ出してあげる」
「うう……」
「鳴いていてもわからないわ。行く? 行かない?」
人間の言葉が話せるかはわからない。しかし、まったくわからないようには思えなかった。
男は唸る。そして、口を開いた。
「……く。いく」
「なんだ。しゃべれるんじゃない。決まりね」
わたしは鍵を使って手足の鎖を解いた。
首の鎖には特殊な魔導具が埋め込まれている。おそらく彼の力を抑えるものだろう。
これは、念のためそのままがよさそうね。
「わたしはこの近くに住んでるの。案内するためにも、まずはこの長い階段を降りないと」