ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う
魔石――それは、魔道具を使うための燃料だ。
石にたまった力を使い、魔道具を動かす。
大昔、世界には魔法使いがいたという。魔法使いは自由に水や火を操り、空も飛べたという。
その力を誰でも使えるようにしたものが魔道具だ。
魔法使いの力を必要にしない分、国中に広がった。
魔法使いはいなくなってしまったけれど、魔道具は日々開発されている。
魔道具が普及すれば普及するほど、魔石の需要は増えていた。
「これを売ったら当分遊んで暮らせるわね」
「そうですね。持ち帰りますか?」
「ええ、私が塔に入っているあいだ、馬車に積めるだけ積めておいて」
売らなくても、修道院で使ってもいい。快適な上に快適が重なることだろう。
なんて最高なのかしら。
「おひとりで入るつもりですか?」
「ええ、もちろん。二人で入って何かあったら誰も助けられないでしょう?」
「でしたら私が入ります」
「だめよ。もし、わたしが戻ってこなかったら、あなたが考える最善の方法で、助けてくれればいいわ」
わたしが助けるより確実だ。
渋る執事を置いておいて、わたしは北の塔の入り口に向かった。
入り口は魔導具で施錠されている。中からは開けられない仕様。こんな不気味な塔、誰も入らないからこうなっているのだろう。
わたしは扉を開け、大きな石を置いて扉を固定した。閉まっちゃったら、中からは出られないから。
上から獣の唸り声が聞こえた。
その唸り声は人間のものとは思えなかった。けれど、こんなところに閉じ込められている獣が、ただの獣なわけがない。
ハイリスクハイリターンというじゃない?
わたしは塔の階段登った。
「ちょっと……後悔し始めているわ……」