ぐーたら令嬢は北の修道院で狂犬を飼う

 思わずわたしは呟いた。なんてことはない。塔の階段が長いせいだ。
 最近王都では魔導具で動く階段も発売された。
 ここはそれを導入したほうがいいと思うの。
 苦しそうな鳴き声を聞きながら、わたしは一歩一歩登って行った。
 登りきった先には鉄格子がハマった扉がある。
 声の主はその扉の先にいた。

「グルルルル……」
「あなたが王子様?」

 窓が閉まっているせいか、黒い影しか見えない。
 鎖に繋がれた獣にも見えるし、人間にも見える。
 扉の近くには丁寧に鍵がかけられていた。

「人間の言葉、わかる?」
「グルルルル……」
「こんなところにいたら、わからないわよね」

 ここに来たのは失敗だったかしら?
 でも、ここまで頑張って登ったのに、何も得られずに帰るのは癪よね。
 ぐーたらするための努力は惜しまないわたし。
 でも、それは努力の先にぐーたらが待っているとわかっているからよ!
 このまま努力をむだにするのは許せない。
 階段分の成果は貰わなければならないわ。わたしは鍵で扉を開けた。
 鎖に繋がれた男が暴れる。
 鎖同士がぶつかる音が石造りの塔の中で響いた。

「まずは王子様の顔を拝まないとね」

 イーサン殿下はそれなりのイケメンだったから、血縁者なら期待できるのではないかしら?
 わたしは固く閉じられた窓をこじ開ける。
 太陽の光が塔の中に入った。

 真っ黒な髪は腰まで伸びている。
 イケメンかどうか確認したくても、それは難しそう。
 彼は、両手両足を鎖で繋がれていた。それどころか、首も鎖で巻かれていて苦しそう。
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