隙なしハイスペ女子大生は恋愛偏差値が低すぎる。
きっとこういう状況、斉木さんは大の苦手だ。絶対に困っているはず。俺は彼氏でもなんでもないけど、一人の友達として斉木さんに嫌な思いをしてほしくなかった。そう、友達として。
「ちょっと、お前ら黙ってろよ」
そう言おうと思ったのに。
俺が口を開いたその瞬間に、斉木さんが先に言葉を発した。にっこりと笑いながら。
「こんにちは。斉木里香っていいます」
さながら後光の差す女神像のような美しい笑顔を作って、男たちに優しく声をかける斉木さん。とても男性が苦手だなんて誰も思わないだろう。友達らはそんな斉木さんの微笑みに息を飲んだ。
「ごめんね呼び止めちゃって。じゃあ、またね大野くん」
そう言って斉木さんはくるりと踵を返し去っていった。斉木さんのオーラを全身に浴びた友達らはしばしフリーズ状態だった。
「……」
そんな彼女の後ろ姿を俺はただ黙って見送ることしかできない。
きっと、あまりの美しさに圧倒されてこの場にいた誰も気づいていないだろう。にっこりと微笑みながらも微かに斉木さんの足が震えていたことに。
「……悪いけど、俺明日早いし帰るわ」
俺はそう切り出してこの場から離脱しようとした。すぐそばにいる亜衣は気まずそうにしているが、やっぱり亜衣と今ここで二人になって話すという気分ではない。なんてったって、俺たちはもう既に終わった関係なのだから。
(斉木さんに何て思われただろう)
亜衣との不自然なほどの距離の近さを一瞥して一瞬固まったことは、俺でもわかった。でも、別に弁明したところで、斉木さんにだって涼太さんがいる。何をそんな必死に否定しようと、誤魔化そうとしているのか。その焦りに苦笑してしまう。
(何と思われても別に関係ないのにな)
亜衣が俺に向かって何かを言い出そうとしていたが、俺はそれを制するように「じゃあまたお盆に」とその場にいる全員に向かって声をかけて駅の方へ歩き出した。
斉木さんの姿は、もうどこにも見えない。
諦めたはずなのに、望まないと決めたはずなのに、彼女が自分の視界に入り、自分の名前を呼ぶだけでふっと欲望が顔を出してくる。
このどっちつかずの感情にいつまでも振り回されていてはいけないと、自分でもわかっていた。しっかりとけじめをつけるべきなのだろうということも。