【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
「……わたくし、殿下にお会いしとうございました」
「――!」
「たったひと月ですのに……とても、寂しくて。……毎晩、殿下を思い出して……」
――ああ、いけない。
うっかり涙が零れてしまいそうになる。
声が震えてしまいそうになる。
絶対に泣かないと、アレクシスを困らせることだけは止めようと、そう決めていたのに。
あまりに、アレクシスが優しくて。
「……っ」
エリスは涙を堪えようと、ぐっと奥歯を噛みしめる。
どうにか笑顔を見せようと。
――すると、次の瞬間。
「もういい。何も言うな」
と低い声がしたと思ったら、身体がぐん、と宙に浮き、気付いたときには、アレクシスの左腕一本で抱き上げられていた。
「――っ。で、殿下……何を……」
「大人しくしていろ。話なら後で聞く」
「……っ、……はい」
まさかこの状況で抱き上げられるなど想像もしていなかったエリスは、顔を真っ赤にして俯く他ない。
その一方で、アレクシスは困惑した様子のシオンを睨むように見定めた後、ジークフリートの方を振り返った。
胸倉を掴まれたにも関わらず、いつもと変わらぬ緩い笑みを浮かべるジークフリートを冷えた瞳で一瞥し――有無を言わさぬ口調で、セドリックに命じる。
「俺はエリスを連れて先に戻る。お前は二人から、よく話を聞いておけ」
――と。それだけを言い残し、アレクシスはエリスを抱えたまま、帝国ホテルを後にした。