【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜
◇
その後エリスは、アレクシスに抱えられたまま馬車に乗せられ、エメラルド宮へと向かっていた。
けれど、どういうわけだろう。
馬車が動き出していつまで経っても、アレクシスはエリスを膝の上に乗せたまま、腰をガッチリとホールドして離そうとしなかった。
「あの……殿下」
「……何だ」
「そろそろ下ろしてはいただけませんか? わたくし、ひとりで座れますので……」
「駄目だ」
「……? どうして……」
「理由などない。俺が駄目だと言ったら駄目なんだ」
といった具合に、理由すら説明せず、どこか不機嫌そうな顔で窓の外を睨みつけている。
そんなアレクシスを前に、エリスの心には、僅かばかりの不安がこみ上げてきた。
(ホテルでの殿下の声はお優しかったのに、今の殿下は怒っているみたい。やっぱり噂のことを気にされて……? それとも、昨夜の外泊のことかしら。こうして抱きしめてくださるのだから、見限られているわけではないと思うけれど)
エリスはそんなことを考えながら、そういえば、前にも同じようなことがあったな――と思い出す。
そう、あれは忘れもしない、建国祭の日。
川に落ちた子供を助けたその直後、エリスはアレクシスにお姫様抱っこをされたまま馬車に乗せられ、エメラルド宮の自室まで連行されたのだ。
あのときはまだ、アレクシスと気持ちが通じる前で、不機嫌なアレクシスに話しかけるなどとてもできなかった。
――だが、今はもう違う。