Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
彼はゆっくりと時間をかけてオリヴィアの手の甲に口付けをした。
一見、ヒューバート・ファレルの欠点を見つけるのは簡単なことではない。
彼の身のこなしは都会風に洗練されており、優雅に巻かれた金髪は古代ローマの美神像のようだし、少し神経質そうな印象を与える細い鼻筋をのぞけば、なかなかの美青年でもあった。
瞳は青で、貴族の生まれを主張するかのような鈍い輝きを放っている。
身長は、特筆するほどではないが、平均よりは高いようだった。
「まったく冷たいものだね、エドモンド。こんなに可愛らしい奥さんをもらったというのに、一言の知らせも送ってこないとは? 僕だったら世界中に公言して回っているところなのにな」
そう言ってヒューバートは、オリヴィアの全身に意味ありげな視線を走らせると、エドモンドと向かい合うべく背筋をうんと伸ばして立ち上がった。
ヒューバートの足元はかかとのある洒落た靴で決められていたが、それでも長身のエドモンドには届かない。
座ったままのオリヴィアは、二人の男を交互に見上げながら混乱していた。
二人の伯爵は熱心にお互いを見つめ合っている。
サウスウッド伯爵……。
たしかにこの地方は大雑把に北のノースウッド領と南のサウスウッド領に分割されていて、それについてはオリヴィアもよく知っている。
ただ、結婚して間もない上に、エドモンドが社交ごとにほとんど興味を示さないので、実際の交流はまだ何もなかった……が。
(もしかしたら、これが理由だったのかも……!)
と、ひらめいて、オリヴィアは瞳を輝かせた。
社交ごとは、なんといっても妻の度量が試されるまたとない機会だ。
界隈の有力者を気持ちよくもてなし、気の利いた会話を円滑にすすめられるよう夫の手助けし、春風にも負けない爽やかな笑顔を振りまくことで、夫を引き立てる。
しとやかで愛らしく、また控えめながらも馬鹿ではない妻がいるとすれば、エドモンドの評判も高まるはずだ。
これこそが、ローナンが彼女のために計画してくれた「機会」なのでは?
一点の染みもない完璧な伯爵夫人ぶりを演じてみせる。
そうすればエドモンドの頑なな心もいくらか解けて、オリヴィアを妻として認めてくれるかもしれない……。そうだ!
そうと心が決まれば、オリヴィアの行動は早かった。