Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
 ノースウッド伯爵エドモンド・バレット卿は冷静だった。
 少なくとも、これから結婚する男にしては、充分すぎるほどに冷静だった。

「私、エドモンド・バレットは」
 言いながら、目の前に佇む、これから自分の妻になる少女に一瞥を投げる。

 少女の柔らかく曲線を描いた黒髪は絹糸のように艶やかで、白い肌はまだ生まれたてのように瑞々しかった。──なんてことだ。

「汝、オリヴィア・リッチモンドを妻とし」

 それ相応に年のいった女を求めていたから、もうすぐ二十歳と聞いて安心していたというのに、これではまだ十五、六歳にしか見えない。
 唯一の大人の証は豊かな胸元だけで、もしこれがなかったら十四歳だと言われても信じてしまいそうな童顔だった。

 いっそ、神父の首をニワトリのように絞めて、この式をなかったことにしたい。
 しかし少女の持参金は抗えない魅力だった。

 ノースウッドには金が必要だ。

「病める時も健やかなる時も──」
 エドモンド・バレットはだんだんと苛立ちはじめ、誓いの言葉も早口になっていった。「死が二人を分かつまで、共に生きることを誓います」

 新郎の気などまったく知らない神父は、大らかに両手を広げて、ふたりに向かって儀式の進行を促した。

「神とこれらの証人の前で、汝らが夫婦になったことを宣言します。さあ、新婦へキスを」

 エドモンドはぐっと新婦の腰を引き寄せ、すばやく純白のベールを顔からよけると、奪うようなキスをした。
 それは熱く、五万ポンドの持参金の味がした。

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