Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
コン、コンと部屋の扉が叩かれる音がして、オリヴィアは「はい」と短く答えた。
相手はマギーだと確信があったので、扉が開いて誰かの足音が近づいてきても、オリヴィアは振り返らずに相手に背を向けたままでいた。
最後の仕上げにドレスを着るのに、彼女の手伝いを頼んだからだ。
「マギー」
オリヴィアは相手に背を向けたまま立ち上がって言った。「髪はこれで大丈夫かしら。ノースウッド伯爵が気に入ってくれるといいんだけど……頬をつねったほうがいいと思う?」
しかし、なかなか答えがないので後ろを振り返ったオリヴィアは、驚いて短い悲鳴を上げた。
部屋の中央にエドモンドが立っていた。
すでに黒の礼装に身を固めていて、髪も大部分を後ろになでつけている。正装したエドモンドは、信じられないほど背が高く、そして堂々として逞しく見えた。
「頬をつねる必要はない。十分に桃色に染まっているように見える」
エドモンドはそう言って、オリヴィアの全身に素早く視線を走らせた。
オリヴィアは慌ててガウンの前ごろ身を合わせたが、エドモンドは特に動揺したようすを見せなかった。オリヴィアはごくりと息を飲んだ。
「そして……私が、その髪を気に入るかどうかという質問については……イエスと答えておこう。あなたはいつも美しい」
大きな一歩でオリヴィアに近づいてきたエドモンドは、そう言うと片手に掴んでいた小さな箱をオリヴィアの前に差し出した。
緑の装飾紙が張られた木箱で、オリヴィアはすぐにその中身に思い当たった。
──これは宝石箱だ。
初めて二人で参加する舞踏会の前に夫が妻に宝石を贈るのは、しきたりのようなもので、国中の若い娘が夢見る場面だ。
オリヴィアにだって、そんな幻想がなかったわけではない。
でも、かりそめの二人には望むべくもない夢だと思っていた。
恐る恐る一歩前に進み出たオリヴィアは、夫の差し出す木箱に手を伸ばした。
「私が開けてもいいのですか?」
「あなたのものだ。今日に間に合わせるのは簡単ではなかったが、丈は合っているだろう」