Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 オリヴィア。
 祈るように名前を呼んでも、返事は聞こえなかった。

 喉の奥から、なにか苦いものがじわじわと上ってくるような嫌な感じがする。身体の一部がゆっくりと失われていくような、恐怖に近い感情。
 そしてエドモンドは気づいた。

 もうずいぶんの間、こんなふうにオリヴィアと離れたことはなかったのだ……と。

 あの結婚の日から今日まで、オリヴィアはいつも、エドモンドがその気になれば手の届くどこかにいた。別々の寝室で過ごした夜でさえ、もしエドモンドが望めば、彼女はすぐにエドモンドの腕の中に来てくれていたのだろう。
 いつだって、彼女から逃げていたのは自分の方だった。

 それが今、はじめて──オリヴィアに逃げられたのだ。

 それはまったくもって、本当にまったく控えめにいっても、臓腑がちぎれるような痛みをエドモンドに与えた。自分はなんという阿呆だったのか。

 逃げられるはずのないものから逃れようとし、道化を演じただけだ。

 なにが欲しかったのか。
 なにが必要だったのか。
 エドモンドは自分をよく分かっていなかったのだ。

 激しい想いを持てあまし、バレット家の呪いを盾にオリヴィアを自分から遠ざけようとした。まるで、そうすれば全ては丸く収まるとでもいうように。

 ——なんと愚かなことか!

 どれだけ逃げようとしたところで、人が人を愛する心が消えることなど、ない。
 そんなものは愚か者のすることだ。
 たとえば、私のような。

 しかし、エドモンドがただの愚かなろくでなしと違うのは、自分の間違いを認め、それを改める覚悟があることだった。
 次にあの水色の瞳と向かい合うことができたときは……そう考えるだけで、エドモンドは少年の頃でさえ感じたことのない、激しい高揚を胸に抱いた。

 あの口づけの続きをしよう。

 そうだ、あれはまだ終わっていない。
 始まってさえいないのだ。

 エドモンドのような男が本当に女性を——特に、自分の妻を——愛し、それを認めたときに何が起るのか、それは彼自身も想像がつかなかった。
 ただ、それはひじょうに、激しいものとなるのは確かだ。誰一人思い浮かべなかったほど。

 オリヴィアめ。
 君の望んだものを与えよう。
 ただし、私が望んでいるものの方がずっと大きく激しく執拗であると、今に気付くはずだ。

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