Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
The Tipping Point 着火点
オリヴィアは勢いよく階段を駆け上がって、二階の寝室へ飛び込むとあわてて扉に鍵をかけた。
──なぜか、そうしなければいけないような気がしたのだ。
自分と、外の世界との間に、しっかりとした境界線が必要な気がした。
「……ふ……っ」
頼りない声がオリヴィアの唇のあいだから漏れて、水色の瞳からは、涙が小さな水晶のかけらのようにぽろぽろと落ちてくる。
視界が霧に包まれたようにぼんやりと霞んだ。
嗚咽を押しとどめようと口元に手をあてたまま、オリヴィアは床に座り込んだ。
今のは、なんだったんだろう?
エドモンドに叩かれた手が、ヒリヒリと痛んだ。
彼に言われた言葉が、鋭利な矢となって容赦なくオリヴィアの胸を突き刺す。あの怒りに満ちた緑色の瞳に、今にも焼かれてしまいそうな気がした……。
(どうして……?)
何がエドモンドの気に触れたのかは分からなかったが、彼をひどく怒らせてしまったことだけは確かだった。
震えるほど強く握られた拳に、歯軋りが聞こえてきそうなほどきつく結ばれた口。燃えるような瞳。ただの癇癪と呼ぶには、エドモンドの怒りは鋭すぎた。
そして──
『サー・リッチモンドの屋敷へ戻り、彼に伝えなさい。私は、貴女のような重荷を背負うことはできない、と』
エドモンドははっきりと言った。
帰れ、と。
オリヴィアはお荷物であり、彼には必要ないのだと。
彼の言葉が、頭の中で何度も繰り返し反響する。オリヴィアはしばし呆然として、生気のない視線を寝室に泳がせていた。
「荷物……」
気がつくと、オリヴィアは無意識にエドモンドの台詞を反芻していた。
「『彼に伝えなさい……私は、貴女のような重荷を背負うことはできない』……」
ありえないほど、屈辱的な言葉だ。
──なぜか、そうしなければいけないような気がしたのだ。
自分と、外の世界との間に、しっかりとした境界線が必要な気がした。
「……ふ……っ」
頼りない声がオリヴィアの唇のあいだから漏れて、水色の瞳からは、涙が小さな水晶のかけらのようにぽろぽろと落ちてくる。
視界が霧に包まれたようにぼんやりと霞んだ。
嗚咽を押しとどめようと口元に手をあてたまま、オリヴィアは床に座り込んだ。
今のは、なんだったんだろう?
エドモンドに叩かれた手が、ヒリヒリと痛んだ。
彼に言われた言葉が、鋭利な矢となって容赦なくオリヴィアの胸を突き刺す。あの怒りに満ちた緑色の瞳に、今にも焼かれてしまいそうな気がした……。
(どうして……?)
何がエドモンドの気に触れたのかは分からなかったが、彼をひどく怒らせてしまったことだけは確かだった。
震えるほど強く握られた拳に、歯軋りが聞こえてきそうなほどきつく結ばれた口。燃えるような瞳。ただの癇癪と呼ぶには、エドモンドの怒りは鋭すぎた。
そして──
『サー・リッチモンドの屋敷へ戻り、彼に伝えなさい。私は、貴女のような重荷を背負うことはできない、と』
エドモンドははっきりと言った。
帰れ、と。
オリヴィアはお荷物であり、彼には必要ないのだと。
彼の言葉が、頭の中で何度も繰り返し反響する。オリヴィアはしばし呆然として、生気のない視線を寝室に泳がせていた。
「荷物……」
気がつくと、オリヴィアは無意識にエドモンドの台詞を反芻していた。
「『彼に伝えなさい……私は、貴女のような重荷を背負うことはできない』……」
ありえないほど、屈辱的な言葉だ。