タケシと柴犬のリン
 タケシは7歳の誕生日、待ちに待ったプレゼントを受け取った。ふわふわの毛並みに、くりくりとした瞳の柴犬の子犬だった。タケシは、その小さな命に「リン」と名付けた。リンは、タケシにとって初めての、かけがえのない友達になった。

毎朝、タケシが学校へ行くときには、玄関先で見送るリン。そして、夕暮れ時、タケシがランドセルを下ろすと、しっぽをブンブン振りながら飛びついてくるリン。タケシの笑顔は、リンと過ごす毎日に増え、家にはいつも、リンの小さな鳴き声と、タケシの明るい笑い声が響いていた。

 ある日、タケシは急に熱を出して寝込んでしまった。いつも元気いっぱいのタケシが、ぐったりと布団の中でうなされている。リンは、タケシの様子がおかしいことに気づいた。タケシの熱っぽい頬を心配そうに舐め、小さな体を寄せた。

リンは、タケシが苦しそうにしているのが辛かった。タケシがいつも喜んで食べる、あの甘いお菓子があれば、きっと元気になってくれるのに…。そんな思いが、リンの小さな胸を満たしていった。

夕暮れ時、いつものようにタケシが帰ってくる気配がないことに気づいたリンは、こっそりと家を抜け出した。小さな体で、タケシが大好きだった、あの駄菓子屋を目指して。

道は長く、リンには初めての冒険だった。車の音に驚き、大きな犬に吠えられ、何度も怖くなった。それでも、タケシの笑顔を思い浮かべながら、必死に足を進めた。

やっとの思いで駄菓子屋に到着したリン。しかし、店主に
「犬は入れません!」
と追い払われてしまった。リンは、小さな声で
「タケシ…」
と鳴きながら、お菓子を手に入れることが出来ずに、悲しくなって店から離れていった。

空には星が瞬き始め、辺りは暗くなってきた。リンは、タケシのいない家に、一人ぼっちで帰っていく。しっぽは下がり、足取りも重かった。

しかし、その時、リンは何かを感じた。それは、かすかな、けれども確かに聞こえる、タケシの声だった。
「リン…」

リンは、その声に導かれるように、家へと急いだ。そして、家の玄関を開けると、そこには、熱が少し下がったタケシが、弱々しくながらも笑顔でリンを待っていた。

「リン…帰ってきてくれたんだね…」
タケシは、リンを抱きしめ、涙を流した。

リンは、タケシの温かい胸の中で、安心したように眠りについた。お菓子は買えなかったけれど、リンはタケシに、自分の気持ち、そして、タケシへの深い愛情を伝えることができたのだ。 その夜、タケシの熱は完全に下がり、リンの温かい愛情に包まれて、ぐっすりと眠りについた。 そして、翌朝、タケシは元気な姿で目を覚ました。リンの愛は、どんな薬よりも効き目があったのだった。

タケシが学校から帰ると、一番に駆け寄ってくるのはリンだった。ランドセルを玄関に置くと、リンはしっぽを大きく振って、タケシの足元にすり寄る。タケシは、リンの頭を優しく撫でながら、
「ただいま、リン!」
と声をかけると、リンは嬉しそうにクンクンとタケシの匂いを嗅ぎ、じゃれつくようにタケシの手に飛びついてくる。

公園では、タケシがリンとボール遊びをするのが日課だった。タケシが勢いよくボールを投げると、リンは俊敏に走り出し、ボールをくわえてタケシの元へ戻ってくる。その度に、タケシは大きな声で笑った。リンは、ボールをタケシに渡すと、またすぐにボール遊びをしようと、しっぽを立てて待っている。時には、タケシが転んでしまうと、心配そうにタケシの傍に寄り添い、鳴き声をあげていた。

家の中では、タケシはリンに様々な遊び方を教えていた。ぬいぐるみをリンに持たせ、一緒に追いかけっこをしたり、リンの好きなおもちゃで、リンとじゃれ合ったりする。リンは、タケシの遊びに夢中になり、タケシの膝の上で眠りこんでしまうこともあった。タケシは、そんなリンを優しく抱きしめ、静かに本を読んだり、宿題をしたりする。

夕飯の後には、タケシはリンとソファで一緒にテレビを見ることが好きだった。リンは、タケシの傍に寄り添い、タケシが食べるおやつを少し分けてもらうのを待っている。タケシがおやつをリンにあげると、リンは嬉しそうにそれを食べ、タケシの顔を見上げて、満足げな表情をする。

時には、タケシがリンの毛並みを丁寧にブラッシングしてあげることもあった。リンは、ブラッシングを気持ちよさそうに受け入れ、目を細めてうっとりとしている。タケシは、リンの毛並みの柔らかさを楽しみながら、リンとゆっくりと時間を過ごす。

タケシとリンの遊びは、いつも笑顔と愛情に満ち溢れていた。それは、言葉では言い表せない、かけがえのない時間だった。 リンは、タケシにとって、ただの子犬ではなく、大切な家族の一員であり、最高の友達だったのだ。
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