ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
「ツルツルって勢いよく吸い込むとタコの足みたいにスパゲッティが暴れちゃうよ」

「えー、できないよぉ」

 そう言って口をとがらせる私に微笑みながら、蒼也くんが思いがけないことをつぶやいた。

「でも、タコさんみたいな顔、かわいいよ」

 今だったらさすがにからかわれているって分かるけど、あの頃は私も純真で、『かわいいよ』のところしか頭になくて(都合良すぎ)、そんなふうに言われたことがなかったから、物語に出てくる王子様の告白みたいに思えて、なんか急にドキドキしちゃったのよね。

「どうかした?」

 顔をのぞき込まれると、頭の中がぐるぐるしてますますなんて言ったらいいか分からなくなっちゃった。

「えっと……」

「僕は蒼也だよ」

「トム・ソーヤ?」

 アハハと屈託のない笑顔が返ってくる。

「それ、冒険する男の子だっけ。僕は御更木蒼也だよ」

「ミサラギ?」

「うん」

 小さかった私は、それが戦前から続くミサラギグループのことだとは知らなくて、ちょっと言いにくい名前だなとしか思わなくて、頭の中で何度もミサラギミサラギと呪文みたいに唱えていた。

 デザートのゼリーまで食べ終えてすることがなくなってしまったけど、パーティーはまだまだ終わりそうになかった。

 蒼也くんはいろんな話をしてくれた。

 私立の小学校に通っていること、仲のいいお友達のこと、さっきのおじいさんが厳しい人だけど、大好きだってこと。

 半ズボンにサスペンダーは私立小学校の制服だったのだ。

 お話を聞いているのは楽しかったけど、緊張しちゃって私の方からはあまり話せなかった。

「退屈?」

 私はぶるんぶるんと首を振った。

「大人の人はお仕事で大変だよね。知らない人と挨拶しなくちゃならないし」

 父も、大学で研究しているのは楽しいみたいだけど、パーティーはあまり気が進まないと同じことを言っていた。

「君のお父さんは立派な研究をしている偉い先生なんだってよ。今日はすごい賞を取ったお祝いのパーティーなんだってさ」

「ふうん、そうなの?」

 そう言われても、私には分からなかった。

 だって小学生の私にはお仕事のことは難しかったし、うちではただの優しいお父さんだから。

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