ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
「大人ばかりで楽しくないだろうから、子ども同士、別の部屋でゆっくりご飯とおやつでも食べているといい」

 おじいさんはそう言うと、近くにいた係の人を呼んだ。

 恐縮しながら父は頭を下げていた。

「うちの都合で勝手に連れて来たのに、そんなことをしていただいては申し訳ありません」

「なあに、遠慮はいりませんて。今日は先生のためのパーティーですからな」

 そして、男の子の肩をがっちりとつかんで言った。

「なあ、蒼也。翠さんの相手をしてやってくれるな」

「はい、わかりました」と、男の子はハキハキと答えた。

「じゃあ、頼んだぞ」

 私たちは係の人に誘導されて、静かなお部屋に案内された。

 そこは壁一面が大きな窓になっていて、ソファセットが置かれた応接間のような所だった。

 窓からは青空の下に広がる緑豊かな庭園が眺められる。

 それを見た時、大人ばかりの閉めきられた空間から抜け出せてホッとしたのを覚えている。

 テーブルにお子様ランチみたいな食事が二人分並べられた。

「さあ、食べよう」

 並んで座った蒼也くんにうながされて私は手を合わせた。

「いただきます」

「どうぞ召し上がれ」

 いざ食べ始めてみると、ワンプレートのお子様ランチかと思った食事は、パーティー会場にあった大人向けのものをそれっぽく盛りつけたもので、ハンバーグの代わりにローストビーフ、ケチャップライスの代わりがトマト風味のチーズリゾットだった。

 それでも一口ゼリーとナポリタンが添えられていて、リゾットの小山にはなんかおしゃれなマークのついた旗が立っていたから、立派なお子様ランチだ。

「翠ちゃん」

 へ?

 急に名前を呼ばれて顔を向けたら、隣に座っていた蒼也くんがペーパーナプキンを持っていた。

「ケチャップついてる」と、ほっぺをそっと拭ってくれた。

 ナポリタンのケチャップだ。

 私は今でもスパゲティの食べ方が下手だ。

 幼稚園教諭をやっているけど、生徒から『センセー、ケチャップついてるぅ。スパゲッティ食べたでしょー』と名探偵みたいに指をさされてしまう。

 その時も私と同じ小学生なのに、器用に食べる彼はとても大人っぽく見えた。

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