ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
第5章 偽装の仮面を脱ぎ捨てて
 蒼也はミサラギメディカルのCEOだが、自宅でのリモート執務が可能なことから、出社するのは週の半分程度だった。

 ただ、今日はお盆休み明けということもあって決裁事項を片づける必要があり、翠を仕事に送り出した後、蒼也はベイサイドを見下ろす高層ビルのオフィスに来ていた。

 インドから来日した研究者との面談が終わって、迷路のような首都高速を流れていく車の列を眺めていると、悠輝からビデオ通話の着信があった。

「休憩中みたいでちょうど良かったよ」と、悠輝が指をさしながら笑いかける。「その様子だと、翠ちゃんともうまくいったみたいだね」

「ああ、まあな」

「頑張ったじゃん」

「とりあえず、礼を言っておくよ」

「素直な蒼ちゃんなんて、珍しいね」

「おまえのアドバイスのおかげだからな。持つべきものは友だ」

「なんか、むずかゆいよ。どうしたの、変だよ」

 皮肉のつもりが通じなかったらしく、蒼也があくびを噛み殺している。

「ん、まあ、寝不足なもんでな」

 悠輝は顔の前で羽虫を払いのけるように手を振った。

「生々しいからやめてよ。ホント、蒼也って天然だよね。そんなに激しかったの?」

「ん?」と、蒼也が首をかしげる。「いびきはかいてなかったぞ」

 顔に疑問符を浮かべている悠輝に向かって蒼也は話を続けた。

「寝付きは良かったんだが、下手に触って起こしたら悪いから、寝返り打つのも気をつかうだろ。夜中に何度も位置を変えたりしててさ。幸いベッドは広いから窮屈ってことはなかったけどな」

「何言ってんの?」と、悠輝が眉間にしわを寄せる。「ちょっと待ってよ。触らないってどういうこと?」

「熟睡してるのに邪魔されたら誰だって機嫌悪くなるだろ。翠も今日から出勤なんだしさ」

「ねえ、蒼也」と、画面の向こうの悠輝が真顔で首を突き出してくる。「僕が言ってるのは、ほら、男女のさ、夫婦のアレの話だよ」

「アレって何だ?」

「おいおい、言わせないでよ。聞いた僕も悪いけどさ、聞かざるを得ないようにしたのは蒼ちゃんだよ。で、そっちはうまくいったの?」

「悪いが俺は忙しいんだ。連休明けでこの後もアポが分刻みでつながってる。ほのめかしとか、はぐらかしだったら、切るぞ」

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