ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
◇
目を覚ますと、ベッドの上だった。
――あれ?
私、蒼也さんを待ちながら工作の途中で……。
ガバッと飛び起き、隣を見ても蒼也はいない。
まさか、帰ってないとか?
でも、私、自分でここまで来たの?
ベッドを降りてリビングへ行くと、ソファで蒼也が眠っていた。
スーツのままだ。
――ちょ、えっ。
また、そんな格好で。
起こそうと歩み寄った足が止まる。
テーブルの上に紅葉のちぎり絵ができあがっていた。
もしかして、眠っている間に作ってくれてたの?
童話に出てくる小人さんのお手伝いじゃないんだから。
「ありがとう。大きな小人さん」
お礼をつぶやくと、蒼也が薄く目を開けた。
「ん、朝か?」
「おはようございます」と、翠は自分から口づけた。
「お姫様のキスで目覚める朝は最高だな」と、抱き寄せられて、蒼也の上に倒れかかる。
「翠……」
爽やかな朝のキスが濃厚に重ねられていく。
「ちょ、ちょっと、蒼也さん」
「ベッドに行くか?」
「そういうことじゃありません」
翠は蒼也を抱き起こすようにラグの上に腰を下ろし、正座した。
「昨日の夜はどうしたんですか?」
「ん、ああ」と、はぐらかしながら髪を大きくかき上げる。「取締役会が長引いてね。悪いが今夜も遅くなるかもしれない」
「会社で何かあったんですか?」
「いや、なんでもないよ」と、うっすら伸びた髭をさする。「心配しないでくれ」
「でも……」
「外部の人間に話せない機密事項もあるからさ」
――あっ。
そうですよね。
経営者ともなると、一般社員にすら口外できないこともあるだろう。
まして、妻は会社の人間ですらないのだ。
疎外感に押しつぶされて翠の心はしぼんでしまった。
唇をとがらせうつむく妻の肩に夫が手を置く。
「すまない。仕事の心配事は家庭に持ち込まないようにしたいんだけどな」
翠は顔を上げて蒼也を見つめた。
「いえ、いいんです。ただ、私も妻ですから、夫のサポートをしたいんです。あくまでも家庭でできることですけど」
「すごくうれしいよ。ありがとう」と、蒼也の微笑みが迫ってくる。「じゃあ、またキスさせて」
蒼也の情熱的なキスに不安が押し流されていく。
「でもさ」と、唇を離した蒼也がささやく。「昨日も帰ってきてパジャマ姿の翠を見たらホッとしたよ。あんなかわいくて無防備な姿、俺以外に見せるなよ」
――無防備って。
蒼也さんにだって見せたくないですけど、もう。