ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
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仕事から帰ってきた翠は《会議で出社する。夕飯は食べていてくれ。俺の分はいらない》との書き置きを見て、ため息をついていた。
――せっかくお惣菜を買ってきたのに。
話題の海鮮春巻きを食べてほしかったんだけどな。
ま、お仕事じゃ、しょうがないもんね。
一人で食事を済ませ、風呂から出ると、蒼也からメッセージが入っていた。
《まだ終わりそうにないから先に寝ていてくれ》
もう十時過ぎだった。
そんなに遅くなるなんて。
経営者が一般の社員とは働き方が違うことは頭では理解していても、やはりこういうことがあると、健康を心配してしまう。
心が安まる時もないのではないだろうか。
だからこそ、支えてあげたいし、責任をまっとうする姿を応援したいとも思う。
ただ、正直なところ、ちゃんと休んでほしいし、早く帰ってきてほしい。
もしも、求められるなら、受け入れてあげたいし。
――私はいつでもいいですよ、蒼也さん。
昨夜のことを思い出して体が熱くなる。
広いリビングで一人、首がちぎれそうなほどぶんぶんと振って頭から妄想を弾き出す。
日付が変わるくらいまでは待っていようと、翠は幼稚園から持ち帰ってきた材料をテーブルの上に広げると、九月から使う秋をモチーフにした折り紙やちぎり絵を作り始めた。
お月見のお団子にススキ、紅葉、きのこ、赤トンボに蓑虫……。
しかし、昨夜は蒼也に寝させてもらえなかったせいで、さすがに眠気が襲ってきた。
赤い紙をちぎっているうちに、いつしか翠は眠りに落ちていた。