ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
「あいつは翠ちゃん一筋だって」

「どうして断言できるんですか」

「だって、僕、翠ちゃんよりあいつとの付き合い長いんだよ。付属幼稚園の年少組から一緒なんだから」

「それはそうですけど、悠輝さんだって、社会人になってからのことは、全部知ってるわけじゃないですよね。アメリカだって短期留学だったし。レイナさんとか、他にもいろんな人が……」

「ないよ」と、食い気味にかぶせる。「いるわけない」

「なんで分かるんですか」

 悠輝はうなだれながら膝の上で手を組んだ。

「だって、僕はずっと蒼ちゃんのことを見てきたんだ。蒼ちゃんの視界には翠ちゃん以外の女性なんていなかったよ。僕はそんな蒼ちゃんの視線をずっと追い続けていたんだ。その先にいるのが僕だったらいいのにって。僕だけを見てくれたらいいのにって、ずっとそう思いながら蒼ちゃんと一緒に過ごしてきたんだから」

 翠はハッと息をのんだ。

「そうだよ。僕は蒼ちゃんの一番の親友なんだ。でも、だからこそつらいんだ」

 重たい沈黙が二人の間から言葉を奪っていた。

 しばらくして、ため息とともに悠輝がぽつりとつぶやいた。

「僕のせいだよね。迷惑かけちゃったな。でもさ、蒼ちゃんを信じてやってよ」

 翠はスマホに送られてきた二枚の写真を見せた。

「うーん」と、悠輝が首をひねる。「この写真、誰かが隠し撮りしたんだろうけど、不自然というか、何なのかは分からないけど気になるよね。どちらにしろ、切り抜きなら、いくらでもこんな写真は作れるよね」

 須垣との通話内容も話すと、悠輝は今回のやり口について説明してくれた。

「ふつうは、株っていうと、安い時に買って値上がりしたら売って、その差額をもうけるっていうイメージだろ」

「そういう意味では野菜の蕪と同じですよね」

「まあね」と、悠輝は笑みを浮かべながら続けた。「だけど、須垣たちのグループはわざと株価を釣り上げておいて、高いところで今度は空売りを仕掛けたんだね」

「空売り?」

「市場から株を借りて先に売っておくんだよ。値段が下がったところでそれを買い戻せば、その差額を儲けることができるんだ。プロは上がっても下がっても儲かるんだよ」

「そんなことが許されるんですか」

「元々株価が波のように上下するのは知ってるだろ。空売りも、一方的な過熱を抑制して波を安定させるためにはむしろ必要な取引なんだ。もちろん、ルールの範囲内ならね」

「でも、悪用したら?」

「もちろん違法だけど、立証は難しいかな。わざと誤解されるような噂を流して株価を操る。おそらく取り巻きたちが自発的に協力してることで、須垣自身がやってるわけじゃないから、グレーなんだろうね」

「じゃあ、公的機関に訴えても意味がないんですか?」

「むしろ、イメージが悪化する悪手だろうね」

 だったら、どうしたらいいんだろう。

 翠は膝の上で拳を握りしめるばかりだった。

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