ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
「果物切ってきたよ」と、父が応接間に入ってきた。

「あ、すみません。僕がやれば良かったですね」と、恐縮しながら悠輝が頭を下げる。

「本職の人にただでやらせたらまずいよ」と、父は気にせず赤いキウィを口に運ぶ。「甘くて染みるねえ」

 ――お父さん、オッサンみたいな声出さないで。

 二人からあらましを聞いた父は翠に提案した。

「問題が発生した時は、解決できることから一つずつ解きほぐしていくのが基本だ。正体の分からない相手に立ち向かう前に、確認できることから始めるんだ」

「ということは、つまり……」

「まずは、レイナさんという人に会って話を聞けばいい。ここでモヤモヤ憶測を重ねても何も解決しないからね」

 父の言葉に、翠は即行動に移した。

「悠輝さん、レイナさんの連絡先を教えてください」

「ああ、いいよ」

 翠は鞄をつかんで玄関に向かった。

「それと、車で来てますよね? レイナさんのところまで連れていってください」

「えっ、今から?」

 スマホを取り出しながら悠輝が慌てて立ち上がる。

「はい、急いでください!」

 ――時間がない。

「今度コロッケ作りに来るから」

 玄関先まで見送りにきた父にそう言い残して、翠は暗くなった街へ飛び出した。

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