社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「お姉ちゃん!」

 扉を開くと同時に飛びついてきた美女を抱き止める。

「もう、美春(みはる)。飛びついたら転んじゃうってば」

「ごめん、ごめん。お姉ちゃんが来てくれて嬉しくって。今日のステージどうだった?」

 少し頬を染め、慌てて距離をとる妹は女の私から見ても可愛い。明るめのブラウンの髪の毛は綺麗にカールされ、華やかな髪飾りでポニーテールにまとめられ、肩の上あたりで彼女の動きに合わせ右に左に跳ねている。しかも、今夜はフリフリのステージ衣装に身を包み、普段の数倍は輝いて見える。あの溢れそうなほど大きな瞳で見つめられたファンは、歓喜の雄叫びをあげる事だろう。

 そんな妹とは対象的に、ストレートの黒髪を一つにまとめ帽子をかぶった私に華やかさはない。しかも、パーカーにジーパン姿だ。そして極め付けは、この黒縁メガネ。自分でも終わっていると思う。誰も、私をアイドルの姉だとは思わないだろう。

「今日もとってもよかったよ。とっても輝いてた」

 心にも無いことを言う自分は、性格までブスなのだろう。

「本当、嬉しい。それで、お姉ちゃん、今日の打ち上げなんだけど……」

「大丈夫よ。きちんとやっておくから。フォロー配信」

「ありがとう。お姉ちゃん、大好き」

 そう言って抱きついた妹が、次の瞬間には背を向け離れていく。ライブの関係者と肩を並べ、部屋を出ていく妹を見送り何度目かのため息をこぼす。この後する事は決まっている。ライブが終わった後に、美春のフリをして配信を取るだけだ。

 フォロー配信の約束を取り付けるためだけに、私をライブに呼んだのだ。

 虚しい気持ちを殺し、誰もいなくなった部屋を後にする。外へと出れば、会場を埋め尽くしていたファンがライブの余韻を胸に、駅へと向かい列を成す。被っていた帽子を深く被り直し、列へと紛れようと考えていた自分に苦笑がもれる。

 誰も私を知らない。帽子を目深に被る必要なんてないのにね。

 寒空の下、被っていた帽子を外し、ひとり列へと紛れる。

 ほらっ……。誰も見ていない。

 自嘲的な笑みを浮かべ列から離れると、駅とは反対方向へと歩き出した。
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