社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「じゃあ、何? そんなに『鏡レンナ』が嫌なら、辞めればいいじゃない。確かに『鏡レンナ』のデビュー話を、美春に押し付けたのは私かもしれない。ただ、それだって貴方が嫌なら断ればよかったじゃない。あの時おじさんも、私の代わりにデビューしてなんて、美春に強制しなかった。それを、やると言い出したのは美春よね」

「よく言うわよ! あの時、私がデビューしていなかったら、今でも伊勢谷のおじさんに金銭的な援助を受けていたわ。私が『鏡レンナ』としてデビューしたからこそ、今二人だけで生きていけるんじゃない!」

 美春の言う通り、当時社会人として働き始めたばかりの私に、美春を連れて自立できるだけの経済力はなかった。あの時、美春がデビューしたからこそ、伊勢谷の家から自立できたと言ってもいい。

「それは、昔の話よね。今は、お互い違う道を進んでいる。美春は『鏡レンナ』として独り立ちしているじゃない。たくさんのファンを抱え、テレビの仕事も徐々に増えてきている。もう、私がいなくたってやっていける。離れるべきよ、私たち――」

「お姉ちゃんも、私の前から消えるの……、パパやママのように……」

「美春……」

 美春が放った言葉が、心に突き刺さる。呪いのような美春の言葉が、また私を動けなくする。

「そんなの絶対に許さない! 全て暴露してやる。『花音』の正体も晒してやるんだから」

 暗い目をして、こちらを睨む美春の本気を感じ、背筋が凍る。

「いい加減にしろ! 美春。大丈夫だ、穂花は美春の前からいなくなったりしない、絶対にだ」

 狂気を孕んだ目をして、こちらを見つめる美春の視線を遮るように、律季が美春を抱きしめる。その様子を、ただただ見つめる事しかできない自分は心底弱い存在なのだろう。

 また、囚われてしまう。美春という存在に――

 帰れと叫んだ律季の声に、やっと我に返った私は、逃げるようにその場を後にした。
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