社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「それで、話ってなによ? 謝る気にでもなった?」

 リビングの椅子に座り、挑発的な笑みを浮かべる美春を見ても、私の心は凪いでいた。

 玄関扉の前に立った時から覚悟は出来ている。家の中へと入り、リビングの扉を開けた私の存在に一番に気づいたのは律季だった。カチャッと鳴った扉の音に、ダイニングテーブルに突っ伏していた律季の顔が上がる。その顔には疲れの色が濃く残っていた。

 律季には申し訳ないことをしたと思う。

 本来であれば、姉である私が怪我をした美春を介抱するべきだった。それを全て律季に任せ、美春の存在から逃げ出したのだ。でも、律季は私を責めなかった。そして、なにも聞かず私の望みを叶え、美春をリビングへと連れ出してくれた。

 挑発的な言葉を吐く美春を無視し、律季に視線を合わせる。美春の隣に座る彼の顔には今も覇気がない。

「律季、ごめんなさい。貴方に美春のこと全て任せて逃げ出したこと、本当にごめんなさい」

「なんで、律季に謝んのよ!! お姉ちゃんが謝るべきは、この私でしょうが!」

 律季の目を真っ直ぐに見つめ謝罪の言葉を口にし、深く頭を下げる。そんな私の様子に、美春の激昂した声が響くがそれを聞いても、心は揺れない。

「美春に謝ることなんてなにもない……」

「なっ!! なんでよ! お姉ちゃんが勝手をするから私が怪我をしたんじゃない」

「それは、私が花音を辞めると誰にも相談せずに配信を取ったから?」

「そうよ! お姉ちゃんが、辞めるなんて言ったから激昂したファンに襲われたんじゃない」

「ねぇ、美春……それって、本当のこと?」

「えっ? えぇ……、本当のことに決まっているじゃない。まさか、疑っているの?」

 スッと目を逸らした美春の様子に確信を得る。

 やはり、颯真さんが言っていたことは本当だった。美春が襲われたのは、花音が引退宣言をしたからじゃない。それと同時にスクープされた熱愛報道が事の発端だったのだ。

「美春が襲われた原因は、鏡レンナと颯真さんの熱愛報道が発端だったて、聞いたの。鏡レンナの熱狂的なファンが起こした事件だったって。違うの?」

「そ、それは……」

 目を逸らし、爪を噛む美春の様子に、彼女の焦りが手に取るようにわかる。幼い頃からずっと一緒だったのだ。美春の癖なら熟知している。

 予想外なことが起きてイライラしているのだ。

 きっと、今の今まで自分の優位性を疑いもしなかったに違いない。だからこそ焦っている。

 そんなことを冷静に観察できるくらいには、今の私の精神状態は落ち着いていた。
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