社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「確かに『鏡レンナ』デビュー当時は、美春の稼ぎが無ければ、二人で暮らすなんて無理だったかもしれない。ただね、それは美春、貴方にも言えることなのよ。当時、『花音』としての活動を私が続けていなければ、二人での生活は出来なかった。いいえ、鏡レンナデビュー当時、二人の生活費をまかなっていたのは、美春じゃない。私よ」

「そそ、それは……、デビュー当時の話でしょ!! 鏡レンナの知名度が上がってからは違ったはずよ!」

「じゃあ、聞くけど。美春は、一度でも生活費を払ったことがあった? 家賃、光熱費、食費……、二人で生活していくための諸々のお金、美春は一度でも出したことがあった?」

 私の指摘に、美春の大きな瞳がさらに見開かれる。今やっと、私が言わんとしていることを、美春は本当の意味で理解したのだろう。

 今まで自分が脅しに使っていた『言葉』が、なんの意味も持たなかったということを。

「そんなことない!! お金の管理をしているのはお姉ちゃんじゃない。そんなこと言って、私の口座から勝手に生活費引き出しているんでしょ。調べれば、わか――」

「そうね、調べればわかる。美春が稼いだお金に、私が一切手をつけていないとね。それだけじゃない。美春は一度でも、二人で暮らすための家事、したことがあった? 生活する上で必要な家事全般、すべて私に押し付けていたよね。そんな当たり前のことすら、私に言われなければ気づきもしなかったでしょ」

 とうとう言葉を発しなくなった美春を見つめ、静かに言葉を紡ぐ。

「美春にとっての私って、なに? 何でも言うことを聞く都合のいい母親と一緒?」

「……ち、ちが――」

「違くないでしょ。美春だけが悪いとは言わない。貴方のわがままをすべて受け入れてきた私も悪い。両親が亡くなって、美春を守らなきゃって必死だった。自分がお父さんやお母さんの代わりにならなきゃって。お姉ちゃんなんだからワガママを言っちゃだめ、自分が我慢すればすべてが丸く収まる。そうやって、ずっと我慢してきた。でも、それじゃダメなんだって、気づかせてくれた人がいた」

 颯真さんの顔が脳裏を過ぎり、自然と笑みが浮かぶ。

 彼との出会いがすべてを変えた。そして、彼の言葉が、私に一歩踏み出す勇気をくれた。

「――それが、あの男だった。とでも、言いたいの! それでなに!? お姉ちゃんは、花音をやめて、私を捨てて、あの男の元へ行くの。そんなの許せるわけないじゃない!! 私から離れるなんて、絶対に許さない!」

 仄暗い目をして、こちらを睨む美春の狂気に晒され、背が震える。 

 今までの美春とは何かが違う。そんな予感が頭をかすめ、落ち着かない。

 美春にとっての私とは、死んだ両親の代わり。

 ずっと、そう思ってきたが、その考え自体が間違っていたとしたら――
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