社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「どうして、そんなこと、するのよ……」

「どうして? そんなの決まっているじゃない。お姉ちゃんを――」

「――美春! それ以上は言うな!! すべての関係が壊れてしまう!!」

 熱に浮かされたように言葉を紡いでいた美春が律季の静止に、目を見開き口をつぐむ。

 力なく椅子へと戻った美春が、うつむきポツリとこぼす。

「律季だって、私と同じじゃない。上手く行くと思ったのに……、なんで私はお姉ちゃんの妹に生まれちゃったんだろ」

 ポタポタと涙の雫が机の上へと落ちていく。

 いつだったか颯真さんが言っていた。

『光の中を歩いているように見える人間だって劣等感を抱え生きているものだよ。そんな負の感情を抱えながらも、気持ちに折り合いをつけて前に進んでいく。それが人生なんじゃないかな』と。

 美春もまた、私と同じように葛藤を抱えて生きてきたのかもしれない。そして、その葛藤に折り合いをつけ生きて行くことが出来なかったからこそ、私と美春の関係はこじれてしまったのだろうか。

「美春、もう終わりにしよう。今のままじゃ、きっと美春も私もダメになっちゃう。だから……」

「終わりになんて出来ないよ。私の想いは、そんな簡単な言葉で終われるほど、単純じゃない!」

 耳をふさぎ頭を振る美春に私の声は届かない。

 どうすればいいの……

「今のままでは、美春は穂花の願いを聞き入れないだろう。そうだよな、美春?」

「聞くわけないじゃない! 絶対に嫌よ。お姉ちゃんが私から離れるなんて、絶対にイヤ!!」

「かと言って、穂花の意思も変わらないよな?」

 キッと私を睨む美春の様子を見ても私の意思は変わらない。

 美春の願いを受け入れれば、今度こそ私の自由はなくなる。

「えぇ、私の意思は変わらない」

「だったら、二人が納得する方法を取るしかないだろ」

「二人が納得する方法?」

「そんなモノ、あるわけない!!」

 激昂して目の前の机を叩き立ち上がった美春を鋭い目をした律季が射抜く。

「じゃあ、なにか? 美春は、このまま穂花が俺たちの前から消えてもいいっていうのか? あの男なら、それが可能だ。思い知っただろう、今回の件で……」

 悔しそうに顔を歪め、美春が律季から視線を外す。

 あの男って、颯真さんのことよね。

 今回の件、颯真さんも当事者の一人だ。律季と美春と颯真さんの三人で何らかの話がなされたのだろう。その内容がどんなものだったかは知らないが、颯真さんが私に言った言葉が、律季の言葉を肯定している。

『君が望めば、今の状況をどんな手を使ってでも変えてあげる。それだけの力を俺は持っている……』

 もしあの時、私が彼の言葉にうなずいていれば、律季の言う通り、私は今、二人の目の前にはいないだろう。そして、私が望む限り、二人との接点は完全になくなる。

 それだけの力を颯真さんは持っている。だからこそ、彼に頼ってはいけないのだ。

 ただ、颯真さんが私を助けるため動いてくれていたと知り、心の中がフワッと暖かくなる。

 私は一人ではない。

 誰も座っていない隣の席を見つめ、笑みが浮かぶ。

 この場に颯真さんはいない。だけど、彼が隣に座って私の手を握ってくれているような気がする。

 そう思うだけで、勇気が湧いてくる。
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