社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「美春の様子はどうなの? 怪我は……、順調に治っているの?」

「穂花は美春と連絡とってないんだったな。それを禁止したのも俺か」

 二人別々に暮らすことを決めた日、明日のステージまで穂花は美春との接触を一切断つと三人で決めた。それは、三ヶ月後にひかえるライブを成功させるための準備に穂花を専念させる目的と、美春の精神状態を慮っての措置だった。

 だから、今の美春の状態を私は全く知らない。

「美春の足の怪我は順調に治ってきている。普通の生活をするには支障ない程度には回復しているな」

「じゃあ今後、鏡レンナとしてステージに立つことも可能なのね?」

「あぁ、もう少し時間はかかるかもしれないが、大丈夫だろう」

 律季の言葉に安堵のため息をこぼし、瞳に涙が滲む。

「よかった……、本当に、よかった。美春の人生に影がささなくて……」

「穂花が責任感じることもないだろう。もとを正せば、美春に怪我を負わせたのは熱愛報道に触発された鏡レンナのファンだった訳だしな。しかも、穂花に罪悪感を抱かせるためだけに、花音引退に逆上したファンのせいにした。美春の行動に怒っても、心配する理由にはならないだろ」

「確かに、そうかもしれない。でもね、色々あったけど、美春は私の妹だもん。彼女が、これからも光の道を歩んでいけると知って嬉しくない訳ない」

 そう、美春は私の妹なのだ。何が起ころうとも、それは変わらない。

 両親が死んで、たった二人だけの家族になった。これから先、二人の進む道は別れるかもしれない。だけど、美春は、私のたった一人の妹なのだ。その事実は変わらない。

「私たち二人がどんな道を進もうとも、美春が私の可愛い妹であることに変わりないもの」

「本当に、強くなったな、穂花。今の穂花なら可能かもしれない。明日のライブ、初曲を花音の代表曲にする。出来るか?」

――花音の代表曲。あの歌を生で歌う。

 配信で何度も歌っていようとも、ライブで披露したのは『花音』として、Vチューバーライブに参加した一回のみだ。その時も、スクリーンの後ろで歌い、実際の観客を目にしたわけではない。

 正真正銘、観客を目の前に歌うのは初となる。

 私に出来るのだろうか……

 足がすくむほど怖い。だけど、一歩を踏み出すと決めた。そして、きっと彼も『花音』の歌唱を心待ちにしてくれている。

 颯真さん……

 きっと明日、彼は会場に現れる。ずっと私の背中を押し続けてくれた彼のためにも、あの歌を歌いたい。

「律季、あの歌を歌いたい。歌わせて、花音の集大成として」
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