社長の推しは、地味メガネのわたしでした。
「穂花、ごめん。お待たせ」

 そう言って楽屋へと入ってきた心菜の元気な声に、物思いに耽っていた私の意識がそがれる。

「うんん、そんなに待ってないよ。それで贈り物って?」

 私の問いに、ワケ知り顔の心菜が、人の悪い笑みを浮かべる。

「ふふふん……、なんだと思う?」

「えっ? わかんないよ」

 先ほどから両手を背後へと隠している心菜。きっと、隠している手に持っている何かが贈り物なのだろう。でも、ここからでは彼女が何を持っているかまではわからない。

 焦れた私が彼女の手元を覗こうと立ち上がった時、突然目に飛び込んできた視界いっぱいの『青』と、芳しいバラの芳香が鼻腔に広がり、三年前の記憶が甦える。青薔薇の花束を渡された時の狂おしいほどに切ない記憶が――――

「えっ……、青薔薇……」

「はい、どうぞ。『奏音』のファン一号さんからです!」

「ファン一号、さん……、なんで知って……」

「ふふふ、それは内緒。契約違反になっちゃうからね。はい、どうぞ」

 手渡されたメッセージカードを開いた途端、涙があふれ出す。

『もう一度、奇跡をこの手に。une rencontre (奇跡の出会い) miracleで待っている』

――――颯真さん。やっぱり、あなただったのですね。

 ずっと私の背中を押し続け、羽ばたかせてくれた人。その人が約束の場所で待ってくれている。

 メッセージカードの最後に記された『ファン一号』の文字に、もうジッとなんてしていられなかった。

 心からあふれ出した思いのまま、楽屋を飛び出し走り出す。

「穂花! 裏口にタクシー呼んでるから、それに乗りなさいよ!!」

 私の背にかけられた心菜の力強い声に勇気が湧いてくる。前を向き全速力で廊下を駆け抜けた私は、裏口で待っていたタクシーに飛び乗り、宵闇に包まれた街中を抜け、『une rencontre miracle』へと向かった。
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