警視正は彼女の心を逮捕する
 緊張して、落書きされたコンクリートみたいにガッチガチになってるんだろうな。
 自分ではそんな想像をしていた。
 鷹士さんは一瞬いいあぐねたような雰囲気のあと、ポツリと言葉をこぼす。

「Tira-mi-suって顔してる」

 ん?
 それって、どんな顔なの。
 ますますわからない。

 ティラミスは有名なイタリアのお菓子だ。
『私を元気にして』と意訳されることが多い。

「……私、落ち込んでいるように見えましたか」

 問い返す。

「違う」

 即答されてしまったし、自分でも違和感を感じる。

 ……なんだっけ。
 修行時代。
 師匠がやたらウキウキしている時があって。
 そんな時の夜のデザートは、決まってティラミスだった。

 仕事が終わったダニロも、仕込んでいるデザートを見た瞬間、蕩けそうな顔になる。
 師匠を抱きしめて熱烈にキスし始めたっけ。

 ……なんとなく察して、私は食後の団欒もそこそこに部屋へ引き取った。

 翌日、気になって工房の同僚に聞いたら。
 ティラミスには『私を天国に連れて行って』という、艶かしい意味があるのだと教えてもらった。

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