警視正は彼女の心を逮捕する
 イタリアのある美術館で、一枚の絵画の前で日菜乃は歩みを止めた。

 紫がかった青の濃淡で描かれた女性像。 
 鷹士が見たところ、差し色と思える白が印象的だ。

 日菜乃は目をまん丸くして動かなくなった。
 ……彼女と美術館にいくとままあることなので、鷹士はあまり気にしていない。

 日菜乃が小さく呟く。

「【ぐんじょう】」

 鷹士は、妻の関心を少しでも奪いたくて、背後から抱きしめる。
 しかし、人前で濃厚なコミュニケーションを取ると照れてしまう彼女が、反応もしてくれない。

 鷹士は残念に思いながら、彼女の背後から説明書きを覗き込んだ。

 タイトルだろう箇所には、日本語で【群青】と書かれている。
 作品名の下にイタリア語で簡単な概略が書かれている。
 タブレットに翻訳させた。

 深い夜の中で月光に照らされた女、と言うキャプションである。

 門外漢の自分からすると、タイトルや説明を読んでも意図が相異していると思われる芸術品が、多々存在する。
 この作品に関しては鷹士にも説明どおりに見えたので、ホッとした。

 妻へ囁く。

「知っている作品?」
「大好きな作品です」

 夢を見ているような表情で返事が返ってきた。
 ある画家が遺した、シリーズのうちの一作品だという。
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