警視正は彼女の心を逮捕する
「言っただろ。『同居のお祝い』って」
「でも」
「日菜乃ちゃん、俺の顔を立ててくれる?」

 あ。
 この顔は受け取ってくれないやつ。仕方ない、他で返そう。

「わかりました。明日のご飯、頑張ります!」

 私が握り拳を作れば、鷹士さんは楽しみにしている、と嬉しそうに返事をしてくれた。
 整った顔立ちがくしゃりと崩れて、どきりとする。
 ……なんだか、いつもより鷹士さんがくだけてくれている? 
 年上の人なのに、可愛いと思ってしまった。

 インテリアショップも見て、ランチョンマットなどを選んだ。
 いいな、こんな感じ。
 男の人と意見を言いながら、一緒に住む家のあれこれを買うの。
 
 悠 真 さ ん と し て み た か っ た 

「っ」

 ふいに浮かんできた思いに、私は立ち止まってしまう。
 どれくらい固まっていたのか。

「日菜乃ちゃん。飯にしようか」

 声をかけてもらえて、呪縛から解けた。

「……はい」

 
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