警視正は彼女の心を逮捕する
 のみならず、宗方のおじ様が。
『悠真に恥じないためにも、ヒナもきちんとした職業に就かないとな』
 両親にアドバイスしてくださったらしい。

 専門学校で学んだ後、なんとイタリアに修行へ行かせてもらえることになった。

 悠真さんや両親、それに宗方の家との離れ離れの期間は、もちろん寂しかった。
 けれど悠真さんは時折、修行先まで遊びに来てくれた。
 一回だけど、鷹士さんが来てくれたこともあった。
 彼らと色々な美術館を歩けるのは至福の時間だった。

 三年のち、帰国する旨を告げると師匠は引き止めてくれた。
 けれど湿気の多い日本は、乾燥しているヨーロッパより劣化が激しい。
 最後には理解を示してくれた。

 私が東京の美術館の修復部へ就職が決まると、宗方のおじ様やおば様は、悠真さんに私との同居勧めてくださったわけだけど。

「……ん?」

 世間では、これって普通の流れなのかな。
 この状態で私が『二人の交際は両方の家族公認』と思ってしまっても仕方なくないだろうか?
 しばらく考え。

「…………違う、……のか、も?」

 多分、私の恋愛偏差値が低いから、勘違いしたんだ。
 世間一般の人は、使用人の娘が主家のご子息と同居しても問題視しないのかもしれない。

「はあああ……」

 納得できなくて、ため息をついてしまう。
 きっと、私が世間知らずすぎるんだろうな。
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