最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
 誰かに頭を撫でられている感覚がする。こんなふうにされるのは、子どもの頃以来だ。だからこれは夢に違いない。

「――臨」

 遠くで名前を呼ばれ、夢現に目を開ける。

「おばあちゃ――」


「臨」

 低い声に一気に覚醒し、がばりと身を起こした。肩からずるりとブランケットが落ちる。

「あ、えっ!?」

 ベッドで上半身を起こして困惑顔の貴治さんが目に入り、さっと血の気が引いた。

 いつの間にかあのまま眠って、あろうことか貴治さんのベッドに突っ伏していたらしい。

「す、すみません。あの……体調は大丈夫ですか?」

「ああ。熱も下がった」

 顔色はまだ優れないが、確かに昨日よりは調子はよさそうだ。

「シャワーを浴びてくる」

「だめです!」

 なにげない彼の言葉を反射的に否定する。

「きちんと体を温めないと湯冷めしてぶり返しちゃいますよ。お風呂の準備、してきますから」

 手もとにあったブランケットをすばやく畳み、部屋を出てバスルームへ向かう。

 お風呂の湯沸かしのスイッチを押し、その場でへたり込みそうになった。

 なにやってるの、私。そういえば、起きたときにブランケットがかかってあったが、あれは貴治さんがかけてくれたのだろうか。

 想像して、穴があったら入りたくなる。

 お節介を通りこして逆に迷惑をかけてしまった。

 落ち込みつつ、ひとまず着替えるために自室に足を向けた。
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