最悪な結婚のはずが、冷酷な旦那さまの愛妻欲が限界突破したようです
『臨が寝るまで、そばにいてね』

 ベッドから離れようとして足を止める。そのままベッドサイドテーブルから椅子を引き出し、私はそこに腰を下ろした。

「なにかあっても心配なので……貴治さんが眠るまで、そばにいます」

 宣言して彼の方をうかがう。一か八か。拒否されたらおとなしく去ろうと思ったが、貴治さんはなにも言わずにこちらを一瞥すると、ゆっくりと目を閉じた。

 貴治さんの本音はわからないけれど、彼の姿が昔の自分と重なったのだ。

 熱を出して学校を休んだとき、心細くてつらかった。知り合いの洋服店でパートをしていた祖母は仕事を休んでそばにいてくれた。

 申し訳ない気持ちとひとりにされる寂しさが相まってワガママになる。大人だって体調を崩したら、いつもより弱気になったりするんじゃないかな?

『媚びを売る必要はないと言っているんだ。俺にどう接しても君にメリットはない』

 そんなふうに思われたのは心外だと腹が立ったけれど、そう考えてしまうなにかが彼にはあったのかもしれない。

 深入りは禁物だ。どうせ期間限定の関係で、貴治さんも割り切った関係を望んでいる。

 それなのに、どうして側にいようと思ったんだろう。なぜ彼の申し出を拒まなかったの?

 考えても答えは出ない。

 やや苦しそうにしながらも、眠りについた貴治さんを見つめ、明日の朝にはよくなるようにと祈った。
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