だって、お姉様お望みの悪女ですもの
突然、部屋の奥から重低音のある声がしてイザベルはびくりと肩を揺らす。
ノートと言われ、イザベルは先生に運ぶように言われたノートをずっと小脇に抱えていたのを思い出した。
それよりも重要なのは、いつからこの準備室に第三者がいたかという点だ。
(ちょっと待って。この醜聞の一部始終を見られていたの!?)
修羅場を誰かに見られていたと知り、イザベルは顔を赤くした。
恥ずかしいやら情けないやらで感情はぐちゃぐちゃだ。それよりどうやって口止めをしよう。
姉妹による三角関係など醜聞好きな生徒から何を言われるか分かったものではないし、ファロン家の威信にかかわる。
(これ以上悪い噂はごめんだわ)
イザベルは勢いよく後ろを振り向いた。
そこにいたのは、大きな丸眼鏡を掛けたボサボサの黒髪の青年。
隣には骨格模型と人体模型が並んでおり、何というかうまく溶け込んでいる。まったく気づかなかった。
(あっ、根暗鴉……じゃない、ウィリアム・バートラム子爵令息!)
ウィリアムは変わった風貌かつ誰とも連まないことから、生徒たちの間で根暗鴉と揶揄されている。
同じクラスだし、インパクトのあるあだ名だから覚えてしまっていた。
「バートラムさんはいつからここに?」
「男子生徒と女子生徒がやって来てイチャイチャしだす前からずっといた。ここは俺の研究室なんだ」
「ご不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません」
イザベルはウィリアムにノートを渡してから頭を下げる。純粋に勉強していたウィリアムの邪魔をしてしまって申し訳ないし、見苦しいものまで見せてしまった。
「何故君が謝る? そう言えば、二人に怒っていたような」
首を傾げるウィリアムに、イザベルはバツの悪い顔をした。