大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】

第41話 セルファとユフィーリオの夜

どうしてあんな場所にユフィーリオは迷い込んだのか。
影は動揺していた。

あの場所は、影が日頃過ごす生活スペースから少し外れた場所だった。
影が一人になりたいとき、そして、一人になれるチャンスがあったとき、気まぐれに訪れる場所だ。
当然、影の存在を知らない者は立ち入ってはいけないことになっているはずだった。

ユフィーリオは影の存在を知っている数少ない一人だが、彼女がこの場所を知るはずもない。
また、ユフィーリオが王宮内を移動する場合は、必ず侍女が付き添っているはずだ。

驚いて逃げ出したが、それは正しい判断だったろうか。
自分は決められた対象以外に存在を知られてはいけないのだ。
口止めをするべきだったかもしれない。

影はユフィーリオが自分と会ったことについて、誰かに、特にセルファに伝えるのではないかと警戒した。
しかし、その日は何事もなくいつも通りに終わった。
ユフィーリオは自分のことを誰にも言わなかったのだろう。
影はホッとした。

(あのとき、ユフィーリオは何か叫んでたな…。明らかに自分に対して…)

そう思った瞬間、影の脳内にある記憶が閃くように蘇った。
あの場所で人に会うことはない。
しかし、影は過去に一度だけ、人に会ってしまったことがある。

自分より少し年下の女の子。
王宮が広くて迷い込んだのだろうと思った影は、わかりやすい場所まで案内して、そこから道順を教えた。
当時、影もまだ13歳。
自分の行動や女の子が迷い込んだ理由を深く考えず、それっきりになっていた。
女の子の顔など影は全く覚えていない。
興味がなかったからだ。

(まさか、あれはユフィーリオだったのか?)

しかし、それを本人に確かめる気はない。
今回も、このまま何事もなく過ぎ去ってくれればそれで良い。

普段の影なら、引き続き今回の出来事について警戒していただろうが、それどころではなかった。
ミトが気になって仕方がないのだ。
次会うときは、少しでも元気を取り戻しているだろうか。
くるくると表情を変え、影に物怖じすることなく、言いたいことをポンポン言ってくれるミトに戻ってほしい。

頭の中は常にミトがいた。
それでも、今まで生きてきた習性で、やるべきことを影は淡々とこなしていった。
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