大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】
「いつでも申し出てください」

「ありがとうございます」

ミトは礼儀正しく頭を下げた。

「本当はもっとゆっくり話したいところだけど、時間に追われる身なので、この辺で失礼するよ。また、夜にでもゆっくり」

セルファは妖艶とも言える微笑で、ミトの前を通り過ぎるときに、さり気無い動作で頬にキスをした。

「!!!」

予想しなかった行動に、ミトは顔を赤くし、頬を手で覆った。
その反応に、セルファは少しだけ不思議そうな顔をしたが、最後に綺麗な笑顔を残して行ってしまった。

(あ~ビックリした…。もしかして、私失敗したかな?)

思えば、セルファとはもう2度夜を共にしたことになっている。
今更頬にキスくらいで動揺するのはおかしかったかもしれない。
だけど、そんな反応しか出来ないんだから仕方がないじゃないか。
経験がないんだから、情を通わせた男女がどのような関係になるのかなんてわからないに決まっている。
何となく心の中で言い訳をしてしまうミト。
まあ、この1回の反応で怪しまれることはないだろう。

(なんか…私とんでもなく面倒臭い状況に陥ってない?)

今更状況の複雑さに気付いても、後の祭りである。
相談したくても極秘事項なのだから、相談できる相手なんて誰もいない。
とにかく、自分が気をつけるしかない。

王宮をうろつくとセルファにバッタリ出くわすリスクがあると初めて気付いたミトは、少しだけ自分の行動を反省した。
それと同時に、影とセルファの徹底した情報の共有力に驚愕し、完璧なまでに、全ての妃を平等に愛する王子を演じるセルファに、どこかで反発してしまうのだった。
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