大国に嫁いだ小国の姫は国家機密を知り影武者と取引する【完結】
「ミト、早速図書館に来たんですね」
親しげに話しかけられた。
思わず「なんで知ってるの?」と言ってしまいそうになって、寸前でその言葉を飲み込むミト。
(そっか、夜の出来事は影が全部セルファに報告してるんだった)
危ない危ない。
影への発言はセルファへの発言として、ミトも演じなければならないということだ。
ミトは気持ちを落ち着かせて、セルファの側室である自分になろうと努力した。
「はい。本当に素晴らしい設備ですね。こんなに大きな図書館、初めてです」
余所行きの笑顔で答えるミト。
なんか、やり辛い。
「気に入ったかな?」
笑顔は成功したようだ。
セルファも目を細めて、笑顔で応えてくれる。
「ええ。とっても」
(う~ん、空々しい)
裏の事情を知っているミトは、何とも複雑な心境だ。
セルファは慈愛に満ちた顔をしながら、実はユフィーリオただ一人を愛している。
ミトへの優しい眼差しや気遣いの言葉は、全て演技なのだ。
(影といいセルファといい、ローザンってなんか恐いわ…)
内心げっそりするミト。
必死で笑顔を作り、本心が外に出ないよう努めた。
「それは良かった。気兼ねなく、いつでも使ってください。それから、統計学の講師も、ミトが望むならいつでも手配しますよ」
「ほんと!?」
この発言に、ミトは思わずパッと表情を輝かせた。
「本当に、勤勉なんだね」
そんなミトを見て、セルファはクスリと笑う。
これも、演技なんだろうか。