悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
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どうせ最後に見るのならこんな最悪な走馬灯なんて見たくなかった。
木の影に隠れ続ける私は先ほどまでのことを思い浮かべたせいで最悪な気持ちになっていた。
「…はぁ…はぁ」
呼吸がどんどん弱々しくなっていく。
このままでは本当に死ぬ。
もうあれを使うしかない。
私はネックレスのようにしていつも肌身離さず持っていた小瓶に手を伸ばす。
この小瓶こそ、こうなった時用に用意していた最終手段の代物だった。
これは帝国一の魔法使いキースが作った〝時間を戻す魔法薬〟だ。
現代では魔法とは古代の代物でもう魔法自体は存在しない。
しかし魔法を使うことのできる魔力を持つ人間は稀に生まれる。そんな魔力を持つ者たちのことを現代では魔法使いと呼び、魔法使いはその己の魔力と古代から伝わる知識で魔法は使えないが、魔法薬というものを作り出し、生活を豊かにしてくれていた。
私はリタとして学びを深める為、また世間からの評判を上げる為にいろいろな学会へ参加していた。
その中には魔法協会のものもあり、そこでキースのしていた話に私は興味を持った。
何でもまだ誰も触れさえもできていない〝時間〟について彼は研究していたのだ。
その中でも〝時間を戻す魔法薬〟はもしものことが起きた場合の保険としてとても魅力的なものだった。
私はキースの研究の支援者になった。そして試作品だが、その〝時間を戻す魔法薬〟をキースから貰っていた。
それがこの小瓶の中身なのだ。
透明な小瓶の中で水色の液体がゆらゆらと揺れている。
もうどの道死ぬのなら最後にこれに賭けてもいいだろう。
私は最後の力を振り絞って小瓶を開けるとそれを口元に運び一気に飲み干した。
少しだけ苦い味が口いっぱいに広がる。
この選択が吉と出るか凶と出るかわからない。
それでも私は最後に賭けた。時間が戻ることに。