悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜





「…目を覚ましたか」



私を金色の切れ長の瞳が冷たく見つめる。

…ユリウス・フランドルだ。

この部屋に現れたのはこのミラディア帝国のフランドル公爵家の1人息子であり、次期公爵のユリウス・フランドル(18)だった。

この男は皇太子ロイと同じく美しい。
長すぎず、短すぎない真っ直ぐな黒髪は傷みを知らず、いつも輝いており、顔も涼しげで品のあるまるで彫刻のように整った男だ。

ただユリウスは美しいだけで誰に対しても無愛想で冷たい性格ゆえ、周りからはいつも距離を取られていた。
だが本人はそのことについてあまり気にしていないようだった。

ユリウスとはそういう男なのだ。

何故私がここまでユリウスのことを知っているのか。
それはユリウスがリタの学院での同級生であり、さらにはリタと犬猿の仲だったからだ。

冷たく無愛想で真面目で融通の効かないユリウスと自由奔放でわがままなリタは水と油だ。
顔を合わせればお互いに嫌味を言い、いつも口論を繰り広げていた。

それならばお互いに顔を合わせないようにすればいい話なのだが、2人とも文武両道で共に優秀であった為、同じクラス、同じ実技、同じ授業等に振り分けられ、顔を合わせる機会しかなかった。

だがしかし、2人は犬猿の仲であると同時に良きライバルでもあった。
周りから見れば仲は悪いが、お互いに切磋琢磨している間柄にも見えていたことだろう。
勉学、剣術などは私がリタの代役として受けていたので、実際ユリウスが切磋琢磨していた相手は私になるが。

リタと同じ歳であるユリウスは何故か私の知っているユリウスのままだった。
時間が戻っているのならそこにいるユリウスも幼いはずなのに。



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