悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
3.不満と思惑
「フランドルに…いや、ユリウスに何か不満があったからこそ、こんなところまで逃げてきたんだよね?」
建物と建物の間から差し込む太陽の光は、まるで雲と雲の切れ間から漏れ出る光のようで、それを受けているロイはいつにも増して天使のようで何よりも美しい。
そんな神の使いにしか見えないロイが窺うようにこちらを見つめる。
「君のような子どもが大人を頼らず1人で生きていくのはいろいろと大変だろう?だから僕が君を保護するのはどうかな?フランドル公爵邸ではなく、宮殿にずっと住めばいいよ。君が逃げたくなるようなことは絶対にしないし、贅沢も約束したっていい」
そしてロイはそこまで言うとルビーの瞳を細め、その笑みを深めた。
きっと私と同じ状況の者なら、誰もが受けたいと思ってしまう素敵すぎる提案だろう。
何も持たない平民が宮殿にずっと住まうことができ、贅沢をする権利まで与えられるなんて。
だが、まるで獲物を罠に誘き寄せようとしている狩人のようなロイの雰囲気に、私は本能的にそんなロイを警戒した。
私を宮殿に住まわせたいロイにとって、私が逃走していることも、お気に入りを手に入れる手段が一つ増え、むしろそれはそれで好都合とさえ思っていそうだ。
このままではロイに保護され、その後、宮殿に住む羽目になってしまう。
そうなればもう死亡ルートまで一直線だ。
私が死なない為にも今、目の前にいる皇太子からの提案をきちんとお断りし、隙を見てここから逃げなければならない。