悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
「…ごめんなさい。プチ旅行は嘘なんです。実はちょっとしたトラブルがあってユリウスに事情を話す間もなく、フランドルを出たんです…」
私はそう言うとシュンっとした表情と雰囲気を作った。
きっとロイなら私がきちんと言わなかった、
『決してアナタが思っている〝不満〟があってフランドル公爵邸を出た訳ではないんですよ』
という、意味まで読み取ってくれるはずだ。
それに私はオブラートに包んでいるだけで嘘もついていない。これならロイも私の話を信じ、かつ、私を宮殿へと連れて行こうとはしないだろう。
悲しげな雰囲気の私をロイが探るようにじっと見つめる。
真偽を確かめようとするその視線に晒されること数十秒、ロイのその瞳からやっと疑念が消えた。
「そう…。それは大変だったね。そのトラブルって何が起きたのかな?僕でよければ力になるよ?」
「いえ、私の問題なので皇太子であるロイ様のお手を煩わせる訳にはいきません」
「ふふ。君って本当に面白いね。平民の子どもってみんなそんなふうにお堅い喋り方ができるの?学校でそう習うのかな?」
「…」
しまった。
ついリタ代役時の調子で喋ってしまった私をロイがおかしそうに見つめている。
平民の子どもがこんな喋り方をするはずがないし、そもそもこんな喋り方があるなんて勉強しない限り知らないはずだ。
ロイは私が他の子どもと違うとわかっていてあんなことを言っているのだ。
私を見つめるルビー色の瞳を見ろ。
ものすごく意地悪な瞳をしている。