悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜
5. 俺のお嬢様 sideセス
sideセス
「それで?ステラは見つかったのかしら?」
夜。煌びやかな照明の光を受けてリタ様がこちらに歪んだ笑みを浮かべる。
リタ様の横にはリタ様のお父上、ルードヴィング伯爵様もおり、2人は立派なソファに腰掛け、こちらをじっと見つめていた。
ここはルードヴィング伯爵邸内にあるルードヴィング伯爵様の執務室だ。
俺は今日も仕事の合間を縫って行っていたステラ様の捜索報告をこの2人にしていた。
「いえ。ステラと思わしき人物の情報すらありませんでした」
「はぁ、そう。やっぱり簡単には見つからないのね」
俺の淡々とした答えにリタ様が悔しそうに顔を歪める。
我がミラディア帝国の美の女神と讃えられているその美貌もこうも醜く歪められては台無しだ。
「あの女は賢い。こちらが一度敵意を向けた以上どんな手を使って報復してくるかわからん。1番最悪なのは帝国を出て、こちらの機密事項を全て情報として売り出すことだ」
そんなリタ様の横でチッと舌打ちをし、伯爵様が自身の眉間にシワを寄せる。
「やはり暗殺はお前に任せればよかったな、セス。他の者に頼むからこんなことになってしまった」
そして伯爵様はそう言うとはぁ、と大きなため息を一つついた。
ステラ様を殺そうとした夜のことを思い出し、後悔をしている伯爵様をここ数ヶ月で何度見てきたことか。
ステラ様の暗殺はもうずっと昔から俺がやると決められていた。その為に俺は執事業だけではなく、暗殺業も身につけ、ステラ様を確実に殺せるようにと予行としてたくさんのルードヴィング伯爵家にとって邪魔な者を排除してきた。
そしていよいよステラ様を殺す日。
伯爵様は俺にステラ様を殺させなかった。
俺がステラ様に情を抱き、殺さないかもしれないと判断したからだ。
なので俺はあの日の夜、まさかステラ様が暗殺されるとは夢にも思わなかった。
だがしかし暗殺は失敗に終わり、ステラ様は今、どこかに身を隠し、生きている。