悪女の代役ステラの逃走。〜逃げたいのに逃げられない!〜





「ステラ」



やっと陛下がロイから私へ視線を向ける。



「実は明日、私と皇后、ロイを含めた3人の皇子、それからロイの婚約者リタ嬢で夕食を共にするのだが、そこでぜひ、舞を披露してくれないか」

「…え」



陛下は今、何て言った?
舞を披露する?皇族一家の前で?
しかもリタまで参加するの?



「…も、申し訳ございません。先ほども申しましたが、私は踊り子ではないのです。そんな何でもない私が皇族の皆様の前で舞を披露するなどとても…」

「何を言う。確かにそなたは踊り子ではないのかもしれないが、どうやら才能があるようだ。その才能を披露しないとはもったいないではないか」

「ですが、いくら才能があると言いましても素人の舞など見ても常に一流のものに触れられている皇族の皆様にとっては物足りないかと…」

「例え荒削りであろうとそれがダイヤモンドなら輝きを放つものよ。ロイの目は確かでな。その輝きとやらを見てみたいのだ。どうか頼まれてくれないか」

「…」



何とか笑顔でやんわりとお断りをしようと私だが、それを笑顔の陛下が全く許さない。
強い圧を感じる訳ではないが、上手いこと言いくるめられ、私はついに何も言えなくなった。

この皇帝陛下はいつもこうなのだ。
絶対的な立場でありながら下の者に無理強いをすることのない慈悲深さをみせる…とみせかけて、断れない状況に追い込む。

無駄な争いはしない、効率よく動くタイプだ。まさにロイの親なのだ。
リタの代役時に散々関わってきたのでわかる。
これはもう無理なんだと。





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