私の世界に現れた年下くん
完食してお腹いっぱいになった私たちは、歩きながらウィンドーショッピングすることにした。
「あ、CDショップちょっと覗いてもいい?」
「はい、行きましょう!」
CDショップの中に入って、ぐるっと見て回る。
「これ川原先輩がおすすめしてくれた曲だ」
名倉くんがCDを手に取って私に見せた。
「ハマって最近よく聴いてます」
「私も、名倉くんが教えてくれた曲聴いてるよ」
「ほんとですか!」
洋楽系のコーナーへ行って、これと指差す。
「あっ僕の好きなやつ!」
「良い曲だなぁと思って、前買おうとした時があったんだけどね、…」
名倉くんとの関係に戸惑って買うのをやめたことを思い出す。
あの時と今で、また少し変わったのかな…
頭の中で思いを巡らせながらCDを眺めてたら、名倉くんは買うか迷ってると思ったのか、
「僕持ってるんで、よかったら貸しますよ」と言ってくれた。
「、ありがとう。今度貸してもらおっかな」
「はい!」
名倉くんは嬉しそうに笑った。
空が暗くなってきて、デートもそろそろ終わりの頃。
2人の間に、もの寂しい空気が流れる。
「今日はありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
「めちゃくちゃ楽しかったです」
「うん。私も、楽しかったよ」
ほんとに楽しかった。
私の正直な気持ち。
「川原先輩」
「うん?」
名倉くんが不意に足を止めて、私も立ち止まる。
「カフェでも言ったんですけど…。先輩のこと前から気になってて、誘ったのは仲良くなりたかったからです。そこから、だんだん仲良くなれて、ほんとに嬉しくて楽しくて」
とてもまっすぐに、真剣に、伝えてくれる名倉くん。
まさか、この先に続く言葉は…
「川原先輩が好きです」
「今日言おうと思ってたわけじゃないんですけど…、どうしても伝えたくなって。この好きって気持ちは変わらないから、だから言いました」
「…ありがとう。その…嬉しい、です」
どうしよう。
上手く言えない。
突然のことに頭が真っ白で、言葉が詰まってしまっていたら、
「大丈夫です、今答えなくてもいいです」
「え?」
「ほんとはすぐ聞きたいですけど、でも、今日は先輩とデートするチャンスをもらえただけで十分なので。僕のことも考えてくれたら嬉しいです」
僕のこと“も”?
言い方に引っかかる。
もしかして、村井先輩のこと?
やっぱり名倉くん、私が村井先輩のこと好きなんじゃないかって思ってるのかな。
間違ってないけど、失恋してるし…。
でも、だからと言って今、名倉くんの告白に返事ができるかと言われると、まだ心の整理ができてない。
「あの、困らせてたらすみません…」
名倉くんが不安そうな顔になるのを見て、慌てて「大丈夫だよ、ありがとう」と伝える。
「ちゃんと考えるから、少しだけ待ってもらってもいい?」
「はい、もちろんです!」
ホッとした様子で、大きく頷いた名倉くん。
ちゃんと、ちゃんと考えるよ。