氷上のキセキ Vol.1 ~リンクに咲かせるふたりの桜~【書籍化】
「あー、やっぱりアクセルって難しいな」

晶と出会って1年が経とうとしていた。
氷上練習の前に、いつものようにふたりで陸上トレーニングをする。

晶はバッジテスト3級を受ける直前で、何度も陸でアクセルを飛んで感覚を確かめていた。

「晶、シングルアクセルなんて余裕で飛んでるじゃん。全然難しそうに見えないけど?」
「シングルだからだよ。これがダブルとかトリプルになったら、飛べる気がしない」
「へえ、もうそんな先のことまで考えてるんだ」
「当たり前よ。結はダブルアクセル飛んでんだもん、俺が飛べなくてどうする」
「出た、晶の負けず嫌い」
「結もだろ?」

いつも一緒に過ごすうちに、お互いのことは言われなくてもわかるようになっていた。

「それにしても、ここの桜ってこんなにきれいなんだな」

両手を開いて着地姿勢を取った晶が、ふと上を見上げる。

「でしょ? 私、毎年この桜が咲くの、楽しみにしてるんだ」

そう言いながら私も空中高く飛び上がった時、春風が吹きつけて桜の花びらが舞い散った。

「うわー! 結、桜の妖精みたいだったぞ」
「なにそれ」
「なんかめっちゃきれいだった」
「桜が?」
「結が」

え……と私は完全に固まる。
そんなことを言われたのは初めてで、頭の中が真っ白になった。

「あー、まだ目に焼きついてる。結のまわりを桜がひらひらしてさ、幻想的って言うの? ファンタジーの世界だった。なあ、もう一回飛んでみて」
「やだよ、そんなの」
「いいから、ほら」

真剣に言われても、恥ずかしくて無理だ。
私は普通に真っ直ぐぴょんと小さく飛んだ。

「なんだよ、それー」
「飛べって言われたから飛んだ」
「ヘリクツだな、結」
「どこが? ちゃんと飛んであげたでしょ」

ほらほら、と私はその場でぴょんぴょん飛ぶ。
その時また花びらが風で舞い上がり、私は両腕を伸ばしてパチンと手と手を合わせた。

「あれ? キャッチしたと思ったのにな」

空っぽの手のひらを見つめると、もう一度花びらの舞う中をジャンプする。
何度やっても小さな花びらは私の手の中をすり抜けた。

「結、見てろ」

そう言うと晶は狙いを定めて高く飛び上がる。
トンと軽く着地すると、合わせた手を開いて見せた。

「わあ、すごい!」

晶が手のひらに載せた小さな花びらに、私は思わず笑顔になる。

「晶、すごいね。バッジテスト、絶対合格するよ」
「ははは! なんの関係があるんだよ」
「だってすごいんだもん。晶はなんだって簡単にできちゃうよ」
「そうかな?」
「そうだよ」

真剣に頷いてみせると、晶は照れくさそうに笑った。

「サンキュー。じゃあ、結に約束する。絶対合格してみせるから」
「うん!」

そしてその言葉通り、晶は見事に合格してみせた。
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