乙女解剖学
友人が、マスカラを塗りたくったまつ毛をぱさりと音を立てるように瞬かせ、軽薄なため息を吐いた。
避妊に失敗して、赤ちゃんができたらしい。
「まあ、ほらあ、相手に逃げられなかっただけマシっていうかあ? だから籍入れて、産むことにしたんだよねえ」
ぺちゃくちゃと、聞いてもいないことを話し続ける彼女は、あたしと同じ大学の1年生だ。
18歳。もしくは、19歳。
あたしたちは未成年で、お酒も飲めないし煙草も吸えない。全身脱毛の契約をするには保護者の同意書が必要だ。
だけどR18の映画は観れちゃうし、選挙だって行けるし、責任能力だってあるし、結婚もできる年齢。
これは明らかに社会制度の矛盾だ。こんな歪んだシステムを、いったい誰がつくったのだろう。
「大学? まあ、留年することになるかなあ。ほら、つわりとか酷かったら、講義なんて出られるわけないじゃん? なんなら休学しちゃうのもアリかな?」
目の前の彼女がカエルのようにみっともなく脚をひろげて、生々しく哭く様子を想像する。
飲み会の帰りに雪崩れ込むようにベッドで見つめ合うふたり。お互いの熱を求めて唇を合わせ、ぐちゃぐちゃの唾液を絡めて、瞳の中にお互いの裸体を映して、汚いところをまさぐり合って、薄っぺらい言葉を吐いて愛の真似事をする。
興奮したふたりはそのまま本番行為に走ろうと、避妊具の箱に手を伸ばすもそれは空箱で、「今から買いに行くのも面倒だね」なんてことをあたかも冷静に言うのだ。今日は安全日だからとか、外に出すから、とかそれらしい言い訳をして、避妊具を介さない性行為を正当化する言葉を吐き、そのままふたりは生でやっちゃったんだ。
そうに違いない。
ぐ、と吐き気を飲み込んだ。
< 1 / 105 >