ふたりだけのオーキッド・ラグーン
 初デートの隠れ家的カフェにて、本日は特別な日ということで瑠樹から贈り物をもらう。セレクトショップのバックヤードで控えていた店頭に並ぶ前の赤いワンピースだ。
 瑠樹は「真紘は赤がよく似合う」という。そんなこと、はじめてきかされた。今まで知らなかった真紘の魅力を教えられたのだ。
 さらに瑠樹は今までの真紘の仕事の出来を褒めて、カフェではランチを半分こにする。最後には真紘の借り上げマンションで、手料理をご馳走する。研修指導での厳しさとは正反対の、とても甲斐甲斐しい瑠樹がいたのだ。

  でもまぁ、やっぱり瑠樹は俺様なところはある。不意打ちで真紘の借り上げ社宅にやってきては、有無をいわさず連れ出していく。真紘の予定など、お構いなしだ。
 そんな傍若無人な瑠樹だけど、彼は仕事はもちろん料理も帰国子女で、本社ではそれなりの地位で、超絶イケメンとくる。田舎にはいないハイスペックなカレシだ。
 嫌々参加した本社研修が、一度に明るいものとなったのだった。

 その後もお付き合いは続く。
 忙しいなりにも瑠樹は時間を見つけては、真紘の元やってくる。結構マメ。でも公私混同しないから、社内では知らん顔。
 二面性がはっきりしている瑠樹だけど、プライベートでの瑠樹の振る舞いは「とてもカノジョを大事にするカレシ」そのもので、うっかり真紘は忘れてしまっていた。自分がここ東京にいるのは三ヶ月だけだということを。

 忙しくなるからしばらく会えない――そう 言われて、真紘は「瑠樹さん、海外出張がいっぱい続くんだ」とのんきに思う。
 そのぐらいの意味合いでしか理解していなかったが、あとになってその本意を知る。コンペに落選したのも同時であれば、「ああ もう完全に終わったんだ」と悟ったのだった。

 バイバイ、東京。楽しかったよ、素敵な彼氏ができたことだし。
 素敵なカレシとのお付き合いはほんの九十日だったけど、とっても幸せな時間だった。いい思い出になった。

 そうして田舎の実家へ戻ってきたのだが、ドタバタがあって再び真紘は東京へ舞い戻る。
 戻ったというよりも瑠樹に連れ戻されたというのが正解であった。



 ***



 「真紘、寝てる?」

 眠る真紘の枕もとでそんな声がする 心配そうな瑠樹の声だ。浅い眠りから、真紘は目が覚めた。
 目の前には、身支度をきちんと整えた瑠樹がいる。その姿、出勤前のもの。
 シンガポールにやってきた直後に倒れた真紘の様子を、夫は確認しにきたのだった。


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