ふたりだけのオーキッド・ラグーン
 真紘が倒れた原因は、熱中症である。
 ここは、年がら年中、灼熱の太陽が照りつける都市、シンガポール。北峰グループのアジア部門の拠点地である。瑠樹は兄暁紀(あき)と交代する形で、エグゼクティブ社員となって赴任した。

 赤道直下のシンガポールは強烈な陽射しが降り注ぐだけでなく、湿度も高い。そう蒸し蒸しとした熱帯地区の島ならではの、ねっとりとした空気が体にまとわりつく。これは日本の梅雨と同じ。不快以外の何ものでもない。
 外はそんな熱帯地獄。対して一旦、建物の中に入ると寒いくらいにエアコンが効いている。 中途半端なエアコンでは外気の熱気に負けてしまうのだ。

 そんな事情で、外で思いっきり汗をかいて建物に入れば、中は凍えるような寒さの部屋。全身にまとわりついた汗が一度に冷える。体はもっと冷える。
  事前に予備知識として気を付けていたのだが、知ると体験するは全然違う。百聞は一見に如かずで、到着早々、この温度差で真紘は倒れてしまったのだった。

 慣れない寒暖差で体が参ってしまったのかなと、はじめはそう軽く真紘は思っていた。
 だがこれ、なかなか直らない。寒暖差だけのせいではなさそうだ。なぜなら、ときおり奇妙な咳が出るから。
 きっとここにくる飛行機内か空港かタクシーかで、もらってしまったんだろうなぁと真紘は思う。
< 3 / 23 >

この作品をシェア

pagetop